経営者インタビューB+
経営者インタビューB+
京都府出身山口県育ち。幼少期に化石発掘に夢中になり、自然科学・地質学に興味を持つ。大学院修士課程を修了後ニュージーランドでの技術指導および研究期間を経て、大手建設コンサルタントに入社する。国内、インドネシア、フィリピン等での地質調査・解析に従事した後、友人の研究所に転職。東日本大震災などをきっかけに独立を決意し2015年7月にジオサン技術士事務所を立ち上げた。技術士、APECエンジニア、防災士、技術アドバイザーとして活動中。
奈良県生駒市で、国内外の地質に関する調査・解析・コンサルティングなどを手がけるジオサン技術士事務所。代表の西村貢一氏は、高度な専門的応用能力を持つ者だけに与えられる「技術士」の国家資格を所持。技術的・肉体的に困難なフィールド調査には定評がある。東日本大震災を機に一般の人たちに地質や防災・減災の知識を広める活動も開始。独立後は「土地や家を購入する前にそこの自然災害リスクを考え、わからない場合は相談してほしい」と呼びかける。フィールドを愛するワイルドな地質屋に熱き思いを聞いた。
なのでフィールドが命。年の半分以上はハンマー持って野山を這いずり回っております。滝を登り熊に遭遇したり、海外ではコブラを踏んだりキャンプ中に蟻に襲われたりと大変です(笑)。でも、それが好きなんですね。登攀能力と調査技術は誰にも負けませんよ。
タージン それは大変、まるで探検家ですね。独立するまでの経歴を教えていただけますか?
西村 大学院を卒業した後に入社した大手建設コンサルタントでは、優秀な技術者の方々と貴重な体験ができ、技術を磨くことができました。でも、長時間労働が続いたことや、キャリアを重ねるうちにフィールドから離れるようになってきましてね。それで、友人が経営する地質研究所に転職しました。そこは当時、全員が博士か技術士という専門家集団でして、そこに在を置きながら一人在宅で仕事ができるようになったんです。おかげで出張の合間に地域のボランティア活動や趣味の吹奏楽もできるようにも。独立を考えたのはそれからです。東日本大震災が起こったことも、独立を決意した大きなきっかけになりましたね。
西村 私は発災2週間後から石巻・女川をはじめ牡鹿半島を中心に、被災状況の把握など最前線で調査を行いました。そこで目の当りにした未曾有の災害に対して、私は専門家としての責任と無力感に苦悩しながらも、「防災・減災のために少しでもできることを今やらねば」と決意したんです。そして業務の合間に地元で防災に関する市民講座を開催したり、市の危機管理課とハザードマップについて議論を重ねたり、自主防災会の立ち上げに協力したり、宅地の相談に乗ったりしてきました。全て地域に根差したボランティア活動です。
タージン 素晴しい。私も講座に参加してみたいな。でも、ボランティアは大変ですよね。
西村 そう、専門家個人としての発言なんですが、企業に所属しているのでそう思われないことも。また、続けているうちに一般の方向けのビジネスチャンスの可能性も見えてきました。そこで防災士を持った中立・公正な「技術士」が独立すればいいじゃないかと。リスクはありましたが起業に踏み切ったわけです。
タージン 一般の方々向けとは、家や土地を買う人に助言するということでしょうか。
西村 そうです。宅地には様々な自然災害のリスクがあります。地震や土石流・地すべり等の土砂災害、地盤の沈下や液状化、水害や津波など・・・。どこに行っても「ここはやばいでしょう!」というところに家が建っています。崖の下などわかりやすい所もありますが、地震時に発生する盛土造成地の地すべりなどは現地に立っても普通はわかりません。多くの方がリスクを知らずに暮らしておられます。
タージン それは大変! でも、気になっても、どこに相談すればいいかがわからないです。
西村 そうなんです。不動産会社は地盤に関しての告知義務はほぼありませんし、災害リスクなども知らなければ何も問われませんので、あえて調べようとはしません。公共団体による情報は増加傾向にあるものの、個別対応は難しく規制などは最小限です。そこで企業に属していない中立的立場の専門家として技術士の出番がやってくるんですよ。
タージン 教えていただきたいのは調べ方です。穴を掘ったりするのですか?
タージン 知識があれば現地に行かずともわかると。すごいですね。
西村 現地に行けばさらに詳しくわかります。周辺の微地形や露出している地盤・岩盤の状況、擁壁や排水溝の施工状態や変状の有無、周辺の湧水状況や植生等、調査工事をしなくても地質屋の目で購入前に得られる情報はたくさんあるんです。それらを総動員して自然災害リスクを評価します。
な場合が多く、まずはリスクを認識したうえで、家の耐震補強や家具の固定、寝室場所の変更、考え抜かれた避難計画と早めの避難などできることで備えるのがいいでしょう。安全な避難ルートも地震時と豪雨時では異なります。そういったことも防災士として助言できます。
タージン リスクを知るのと知らないとでは、大きな違いですよね。
西村 家というものは「豪雨が発生しても地震がきても、家族みんなそこにいれば安全だ」という場所であることが理想です。そういう所を選んで住んでいただきたい。
タージン これから「土地を買おう」「家を建てよう」という方はぜひ、西村代表のような専門家に相談していただきたいですね。でも、そのためには技術士の存在をさらに身近なものにする必要がありそうです。
西村 そうなんです。私は2009年から、技術士試験に挑戦する若者を応援するボランタリーな活動「SUKIYAKI塾」に参加しているんですよ。「できる時に、できる人が、できることを」を基本に「教えることは、教わること」の気持ちで試験の添削指導や模擬面接などを担当し受講生を支援しています。技術士はとても難しい国家資格で、合格率は十数パーセント程度。私も受験に苦労してきたので、やる気のある若者たちのために支援を続けたいですね。
タージン 西村代表の支援で優秀な技術士が増え、たくさんの人に自分が住む土地や地域の地質を知るきっかけをつくっていただきたいです!
西村 ありがとうございます。災害対策は受け身になってはいけません。ご自身・家族の安全は人任せにせず、危機意識を持ち、積極的に情
報を収集して、そのうえで五感を研ぎ澄ませて判断・行動できるようになっていただきたい。そのためにも、一般の方が地質に親しみ防災を考える機会を広げていきたいですね。
好きなことを仕事にできることに感謝し全力を尽くすこと。そうするとクライアントさんに喜んでいただけて公益のためにもなる。そのやりがいを楽しんでいます。
西村貢一